サービス業界の中の飲食業界におけるお金と時間と幸福

現在24歳、当時は18歳だった頃始めたアルバイトの時給は、都内ではございましたが900円にも満たない、そんな時期でした。飲食業界にかかわらず、多くの企業が端くれの現場の人間に対して求めることは『お客様第一』の言葉です。

お客様第一、お客様のため、お客様の喜ぶ顔。見返りはお金ではなく自己満足のために働いている。故に、よほど老舗のレストランでない限り、本社勤務に成り上がらない限りアルバイト、社員の給金が上がることはありません。会社のポリシー、お店のコンセプトを至る箇所で見聞きいたしました。売上金目標達成によって得られるものは『お客様からの温かい言葉』です。賃金が上がることはありません。

サービス業利用者様が皆様揃って目をそらしているものの1つに、有給制度があります。飲食業界はよほどの大手企業でない限り社員はもちろん、アルバイトに有給は付与されていません。もちろん付与されていますが、使用許可を得ることはかなわないものです。これに関しては、ほとんどの業界あるあるです。流石に監査が入ると会社に不利益になるため、老舗レストランであっても、社員は有給を使用し、仕事に来ていました。

昔ながらの日本だなとつくづく感じます。時代錯誤だと。多少まともで、多少道徳的な仕事はあるだろうと思い、業界を辞めました。

 

そもそも業界を続けていた理由は、単に情があったが所以です。情は悔しいことにお客様に対する、ともに働いていた仲間に対する情です。本社勤務の方や社員に対する情は特ありませんでした。しかし、拘束時間12時間はゆうに超え、無論某電気関係巨大企業のように残業時間(そもそも残業という概念はありませんが)がさしあたりおよそ200時間を超えたあたりで、脳がレッドブルを飲むのをやめるよう躰に刺激を与えました。『働くな。眠れ』と。私はタフな方ではありますが、今でも同様の環境で働いていたらおそらく今私が見ているのはこのテキストを打っている画面ではなく病室あるいは実家の天井だったことでしょう。

 

サービス業界で働いている中、縁があって結婚いたしました。主人もまた飲食業で勤務しており、まだ小さなお店ではありますが、徐々に顧客を掴み売上を伸ばしているようです。会社からの見返りが帰ってくるのはいつになることでしょうか。いつまでも代わらない、ただただ達成感と自己満足を積み重ねていくだけの日々になるのでしょうか。

転職先は形は違えど、お客様対応に変わりはありません。接客する立場からクレーム処理をする立場に変わりました。正反対の立場になりましたが、私の経験してきたものや、お客様の思いなどは十二分に理解しているので、仕事ははかどります。何よりも、賃金が倍に上がりました。躰を駆使して働いた結果、得られるものはお金です。お客様からの感謝の言葉もいただくことはありますが、特に感情はありません。お金があれば心に余裕が生まれる。だから続けられる。ストレスが溜まったとしたら、それはお客様に対するストレスではなく自分自身の不甲斐なさなどに対するストレスです。それは、お金を持って解決することが可能となります。

 

転職期間はおよそ2ヶ月。

 

最終的に働かせていただいた飲食店では、店長が大変寛容な方でした。職場を離れるならば最低でも2ヶ月より前には告知が必要がおそらく社会としてのマナーと思いますが、私はその時『転職を考えています。明日から次に変わる人間を一年掛けて探して下さい』と伝えました。苦労したことは純粋に、今に至るまで培った経験がどこで活かすことができるのかを調べたことのみです。常連様にご相談させていただいたり、助言を頂いたりしました。結果、一ヶ月で次の職場が見つかり、残りの一ヶ月間で当時勤めていた職場に来た新人に仕事を教えることで、私のサービス業界のすべてが終了しました。様々なお店を見て、様々な人々と出会い、嫌いな人も好きな人も増えました。ずいぶん濃い日々を過ごしてきた割に、終わりは大変あっけないものです。今までが苦労していた分、転職は難しくありません。ただのウェイトレスが、会社の中のデスクで画面と向かって仕事をすることができる。その一歩はなんら、難しいものではないのです。

女の転職で痛感したのですが、先述したように、既婚者であったが故に、面接官から『出産予定は』と聞かれることは多々ありました。年齢も若く、考えていないと回答してはいましたが、アルバイトや派遣社員、当然社員だとしても既婚の女性であればその手の質問は必ずくるものです。不快に感じました。特に女性から聞かれたときは、とても複雑な感情が湧いて出ました。相手が男性だった場合、聞き方にもよりますが憤りを感じることはありません。相手が女性だったからこそ、なんとなく、俗的に言えば『裏切られた』といった感情を持ってしまったのだと思います。

 

社会のマナーとして辞めるときははっきりと上司に報告します。ただ、引き継ぐものがあれば、必ず今持っている仕事の責任を果たすべきです。果たすつもりだと伝えることも大事です。しかし、万が一にも『辞めるなら代わりの人間を連れてこい』と言われた場合は、本社に報告するなど適切な行動を取るしか方法はありません。サービス業界の中でも飲食、その中でもコーヒー、バー、様々に枝分かれしますが、業界は大変狭いものです。悪い噂は一瞬で広がります。正しい手順で退職するべきです。